yuzuha18の異世界見聞録

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yuzuha18の異世界見聞録

私的ファンタジー設定メモです

機械箒で掃く風に 〜現代魔女は見習い保安官〜2

 現代魔法小説「機械箒で掃く風に」の第2話です。

 挿絵なしのバージョンを小説家になろうで先行投稿しています。

ncode.syosetu.com

 

Chapter02: 日々の淵源

 

 家から学校までは掃除機で15分ほどかかる。当然急げばもうちょっと早いが、雨が降っていればもうちょっとかかる。そして今日の天気はもちろん大雨♪ 水もしたたる良い女ってね☆
 なんて言ってる余裕はもちろん無い。時刻は8時12分をまわった。SHRショートホームルームは8時30分開始だ。春雨だからといって教室に濡れていく訳にもいくまい。速度は落ちるが反射結界は必須だ。
 ちなみに。
 さっきまでは雨なんか降ってなかったし、天気予報も降るのは昼からなんて言っていた。しかし、私の隣を飛んでいるこの子、ガス状の生物あくまなんかを使い魔にしているせいか、呪いだかなんだかでこうしてしょっちゅう予報はずれの大雨に見舞われている。
 ……というか、どっちかと言えば毎回飼ってる本人より私の方が巻き添えを食ってる気がする。今日だって本人は高性能掃除機でスイスイいってるし。
「ええぃ、くるみ、ちょっと待って。その掃除機、化け物でしょ!」
 さすがくるみの掃除機は最新鋭だけあって法廷速度ギリギリでも余裕のコーナリングでビルの間を抜けていく。
「あっはっは。追いついてご覧なさ〜い? あいらも魔法高の生徒だろ〜?」
 くるみは全く速度を緩める気配がない。下手したら私を置いてくるみだけSHRショートホームルームに間に合うなんて事になりかねない。なんのもなしに、単独で遅刻するのだけは避けたい。はぁ……櫛風沐雨ってこのことを言うんだろうか。
 魔法高の授業は、生徒の自主性を育てるため、ごく少数の必修科目を除いては自由履修の単位制になっている。その上、事件解決の依頼や特別訓練などで欠席する生徒も多いため遅刻しても怒られるような事は無い。
 その代わり、何らかの用事で授業を抜ける場合には、きちんとした届け出をしなければ、成績にはきっちりと響く、何ともシビアな校風だ。
 その上なぜか始業式などの行事にも成績が付けられるという謎の伝統がある。魔女は儀式も大事にするんだってさ。
 まぁ、とはいえこの学校がシビアなのは当然と言えば当然のことかもしれない。
 というのも、お分かりだろう、魔法高は『魔女』専門の日本唯一の高校なのだ。

 『魔女』。
 魔力を有し、「魔法を使用する権限」を持つ唯一の国際資格。現代において魔力を持つ人間はそのほとんどが女性であるとされ、発現はおおかた2次成長期以前、その数も250万人に1人と非常に限られている。
 魔力に目覚めたすべての女児は、世界魔術師機構によって設立された各国の魔女養成学校に入学が義務付けられ、全員が中学校卒業までに魔女資格を取得している。
 つまりこの文明社会においては『魔力を持つ高校生以上の人間』=『魔女』といって差し支えないのだ。
 なぜ魔力を有する者の入学が義務なのかと言うと、前述の通り「魔法の使用」には資格や権利といった複雑な法的事情が絡むからだ。知らないままに無意識で魔法を発動してしまえば、それだけで逮捕、最悪死刑ということもありうる。
 それだけ現代において魔力や魔法技術を持つ事は、通常の武力や筋力を持つ事に比べて遥かに難易度の高い事であるのだ。
 さて、魔女養成学校への入学は義務だとは言うものの、それは中学までの話。魔法の行使に関する法律を学び、資格を取得したり、被教育中と言うことで無意識に使ってしまった魔法に対する罪が免除されるのも魔法中学までだ。
 魔法高は魔女が魔法を使う職業に就くための総合的な訓練学校。
 つまり、火を起こしたり物を浮かせたりといった程度ではなく、職業にできるレベルの魔女の卵が一堂に会するのがここ、魔法高なのである。
 ゆえに魔女を育成する魔法高に入学できたという事は、それ相応の素質があるということ。中でも私たちの所属する政治学部・保安専攻は、公安委員会の許可を受けてその魔法を武力転用して活動できる、最も強い魔力を持つ部類の魔女に分類される。
 ……だが、いくらなんでもこれはモビリティの性能の違いが決定的すぎる。
 私とくるみの距離はぐんぐんと開いていくばかりだ。
 もういっそ周りの目を気にせずに私の使い魔ピーちゃんを呼び出して乗っていこうか。そう思ったときだった。

 ……〜♪

 携帯が鳴る。流行りのバンドの楽曲。この音楽はスマホに最初から入っていた訳じゃない。歌手の名前も曲名もバッチリ理解した上でダウンロードしたものだ。この着信音はーー
(合・理・的・理・由、キターー☆)
「緊急依頼、受けよう、くるみ!」
「えー、しゃーないなぁ」
 私とくるみはポケットからスマホを取り出し、内容を確認した後、急旋回で掃除機の向きを替えた。

  ★☆★

 保安に関わる魔女が仕事を受ける方法は大きく分けて3種類ある。
 魔術師機構からの人員募集、魔術師機構もしくは依頼者からの直接指名依頼、そして現場に居合わせた際の緊急対応だ。
 これらは政治学部の生徒でも、1年生のうちに研修生以上の階級を取得している生徒であれば(というか、取れていないと進級できない)請け負う事が可能だ。
 もちろん、それぞれの難易度によって下限階級が設定されていて、その階級以上の魔女が任務をこなすのだが、魔法高の場合、その報酬にくわえて実働単位がつくこと、また、任務によって一定時間の欠席が公欠扱いになる事などから、魔法高生が受けられる難易度の仕事はほとんど魔法高の生徒らが請け負っている。
 私とくるみにさっき届いたのがその魔術師機構からの人員募集の一種、緊急依頼通知だ。これは魔法事件の情報を入手した魔術師機構が、現場に近い魔女のうち、下限階級をクリアした者たちに緊急で一斉送信するもので、通知を受け取った者は先着で返信することによって任務に就くことができる。
 ーーつまり。
 ここで任務を受けたことで私の遅刻は無かった事になったのだ!
「……いやいやー、失敗したら公欠つかないからね?」
「嘘!?」
 初耳だ。それが本当ならこの任務、絶対に失敗するわけにはいかない。
 『浜松町の立体駐車場付近で護送中の窃盗団員が魔法によって護送車を強奪。運転していた魔女を含む2名を人質に駐車場に立てこもり中。人質救出を最優先しつつ犯人を生け捕りにする事』か。
 成る程上等。窃盗団なんか木っ端微塵にしてあげるわ。
 運転していた魔女さんとやらもグッジョブ。いいタイミングでヘマをしてくれた。
「や、生け捕りだから殺しちゃダメなんだって」
 くるみが何か言ってるみたいだが関係ない。遅刻取り消しの為だ。1人残らず血祭りにあげてやろう。
 もちろん、そのくらいの意気込みで、って意味だけどね。

 指定の駐車場が見えてくる。無骨な鋼材で出来た巨大な自走式立体駐車場。5層6段、延べ床面積約1万9000平方メートル。ここが今回の仕事場だ。
 依頼通知によると、今回名乗りを上げたのは私たちを含めて6人。全員が魔法高の新2年生だそうだ。この時間帯で私たち以外にも請負人がいるなんて、どうせ寝坊でもして遅刻を取り消したいに違いない。不純なやつだ。4人の実動担当の他に保安担当が2人いるが、オペレーションができる生徒が1人も付かなかったのはつらい所だ。
 私たちの担当? もちろん実働担当だ。保安、つまり安全確保とか、そんな細かい作業ができるわけがない。バーっと犯人を倒して美味しいところを持っていくのだ。
 近場のビルの屋上に着陸して合流する。魔法高の実働系2年なら十中八九知り合いなのは予想がつくけど、その仕事仲間はーー
「委員長!?」
 そこにいた2人のうちの1人は、魔法高の入試を実技、学科とも主席でパスし、1年の時は前衛アドヴァンスドクラスの学級委員長を務め、1年にして大手掃除機メーカーのdaiskin社とスポンサー契約まで果たし、第一線で辣腕を振るう八面六臂の真面目系エリート、佐堀梨花さほり りんかちゃんだった。もう1人の子はちょっと知らない。

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「どうしたの!? 委員長も寝坊したの!?」
 わたしがついそう口走ると、委員長(厳密には新学期なので学級委員ではないのだが)はクスクス笑う。
「あいらちゃん達は寝坊したんだね」
 因みに後で聞いた所によると、委員長は3年次にインターンできるだけの単位を揃えておく為に普段から積極的に依頼を受けているらしい。
 根元までしっかりとムラなく萌葱色に染め上げた髪をアップにまとめ、上はベージュの新制服に下はホットパンツとブーツ。アレンジが効いてるけど、多分くるみと違って学校に申請しているんだろう。魔法高の制服は、必要に応じて学校の許可を得、着崩す事が可能なのだ。飛行時に不都合があるとかでパンツルックの生徒は意外と多い。スパッツ履けば良いじゃんねぇ?
 委員長は振り返ると、もう1人の子にも挨拶をする。
「はじめまして。特殊作戦FOS科のさとさんだよね?」
 するとさとさんと呼ばれた子はこくんと頷く。成る程、他の学科か。どうりで見た事無いと思った。というか委員長はなんで知ってるんだろう。
 さとさんは真っ赤な長髪に、どこの軍人かというような装備で、あちこちにナイフやら弾倉やらがくっ付いているが、特殊作戦FOS科じゃ普通なんだろうか。小柄で静謐な分余計に物々しさが引き立っている。
 ちなみに彼女達の髪色が派手なのは遠くから視認できるようにするためであって、別にアパレル関連や芸能関連の仕事をしている訳ではない。まぁ、魔女は市民の憧れみたいな事もあって、一部アイドルのような活動をしている人もいるのだが。
 特にここ数年は魔術師機構のイメージアップキャンペーンだとかで、そういう活動をしている人も増えて、へたなアイドルやスポーツ選手なんかよりよっぽど人気のある魔女も多い。そういえば「魔法高魔術芸能ショービズ科の見習い魔女チーム密着型リアルドキュメンタリー、Witchannel」なんて番組が人気を博していたが、メインメンバーの6人が卒業した今年はどうするのだろうか。魔術師機構に舞台を移して魔女の仕事に密着する業界の裏側紹介番組とかになるのだろうか。
 ともあれ、髪については私は目立ちたくない、くるみはこれ以上髪が傷むと禿げる(本人談)という理由で地毛のままだが、ビビッドカラーの髪色も魔女業界では普通の事、むしろ染めている人の方が多いくらいなのだ。あと魔法の術式構成の関係で染めてる人とか変色してる人も多い。くるみはこっちの部類ね。
「さ、本当は作戦会議でもしたいところなんだけど、生憎あいにく時間が無いね」
 委員長がそう言って駐車場の方に目をやる。私たちがその視線を追うと、ちょうど保安セキュア科の生徒達が駐車場全体に結界を張り終えた所だった。
 ハイタッチをしている所を見ると、どうも遅刻回避が目的だったらしい。窃盗団もそんな動機で閉じ込められるなんて、気の毒だなぁ。
「さー、あたしたちも急ごーよ。後2時間半後に教室にいないとどのみち全員遅刻つくよ」
 いつもきょろきょろと周を見渡すのに余念がないくるみが、今日は掃除機をいじりながらそう言って急かす。普段は最後まで面倒くさがっているタイプなのだが、よほど新しい掃除機が気に入っているのだろう。今回の報酬は20万円と公欠3時間、それに最大0.5単位だ。4時間目までには学校に戻らなければならない。
 ってか、始業式の日くらい授業が無くても良いと思うんだけどなぁ。
 委員長を中心に円陣を組む。
術者のwiches象徴 sign!」
 委員長がそう言うと、それに合わせて全員が杖を抜き、天高く掲げる。魔女が作戦前に必ず行うセレモニーだ。
「復唱。ひとつ、魔術の利は神と国とへ」
「「「魔術の利は神と国とへ」」」
「作戦開始!」
 委員長の合図で、全員が飛び立つ。残り時間はあと2時間20分。