yuzuha18の異世界見聞録

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yuzuha18の異世界見聞録

私的ファンタジー設定メモです

機械箒で掃く風に 〜現代魔女は見習い保安官〜

魔法の設定の一部を流用して、現代ファンタジーを描いています。

小説家になろう」で一足早く投稿していますが

そちらは挿絵なしになっています。

ncode.syosetu.com

 

以下から

Chapter01: 『押し並べて平々たる凡常』

スタートです。

 

 

 

 ……〜♪
 音楽が耳に入ってくる。スマートフォンに最初から入っていた、誰かも知らないミュージシャンの音楽だ。
「……う〜ん、…………」
 私は起きようかどうか迷いながら、2、3度ほど寝返りを打ったあと、わざとベッドから届かない位置に置いたスマホまで、途方もない覚悟で手を伸ばす。
 秒速数センチメートルの速度で床すれすれを這う右手につられて、頭、肩、腰がベッドからずり出し、ちょうど、うつ伏せの状態で腰から上が『く』の字に折れ曲がって床に落ちたところでスマートフォンに指の先が触れた。
 寝ている間に涙でぴったりとくっ付いた重い瞼を開くと、窓から差し込んだ朝の光が瞳に飛び込んでくる。そのまぶしさに何度か目をしばたかせると、少しずつ部屋の壁や天井が見えてきた。
待ち受け画面の時計は、朝の7時。
(やばっ、寝坊したかな……)
 どうやら6時半のアラームに気づかなかったらしい。
 寝ている時は魔法が使えない。時間通りに起きるためには文明の利器に頼らざるをえないのはつらいところだ。まぁ、昨日の事もあったし、今日は仕方ないということにしておこう。
 とはいえ、いつもなら余裕を持って朝の支度ができる所が、30分も違うとそうはいかなくなってくる。
 朝というのはなんでこんなに1分1分が貴重なんだろうか。本当に夜の1分と同じ時間かどうか、誰か確かめてみてほしい。
 パジャマを脱ぎ、パンツとブレスレットだけになる。そして毛布にくるまったままもそもそとベッドを降りる。
 一晩あっためた毛布の中の空間に、冷たいフローリングの床の温度が混じる。急速に熱を吸収するそれは下着姿の生足には刺激が強い反面、どこか健康的な心地よさがある。
 クローゼットの前まで移動すると、ブラジャーと高校の制服のシャツ、スカートを取り出し、毛布の中でゴソゴソと着替える。
 別に誰かから隠しているわけではない。
 やっぱり寒いのが嫌なのだ。健康的? 知らないよそんなの。
 一通り着替えが終わると、服が体温になじむのを待って毛布をベッドに投げ捨てる。
 そしてそのまま腕を振り上げて決めポーズ。私、麦嶋むぎしまあいら、覚醒。
「ふぁぁ……」
 あくびが出た。
 いけない。まだ眠気が覚めてなかったみたい。
「んーっ……」
 私は伸びをしたあと、ボサボサになった髪を手櫛で梳かしながら、寝室をかねたリビングと地続きの台所に向かう。
 ここは都心の一角にある高校生向けのマンション。
 ちょっとした事情から懐具合がいいこともあって、私の部屋は都内では裕福な部類に入る。
 ただし懐具合がいいのは親ではなく私自身のため、家賃は私持ちなのが悩みどころ。
 一人で住むには微妙に広い部屋を横切って、これまたでかい鏡の前に立つと、蛇口の水で顔を洗ってうがいをする。
 ついでに化粧水と乳液も塗って、パウダーでおさえてしまう。
 いつもはご飯の後だが、寝坊した日は先にやっておいた方が至当だ。
 まぁ、少し起きるのが遅くなったとはいえ、朝食をとる時間は十分にある。ちゃんと1日3食とってこそ健康的な生活が出来るってもんだよね。
 というかぶっちゃけ朝抜いたりしたら昼休みまで持たない。
 ブラシで髪を梳かしながら冷蔵庫を開ける。
 すぐに食べられそうな物は……昨日買った鮭の切り身しかない。というか、あさげ(生みそタイプ)よ、きみはなぜそこで冷えてる。
 いや、たしかに冷蔵保存の方が良いんだろうけど、私が入れたか? まぁいいけど。
 とりあえず鮭とあさげを取り出し、朝食の準備を始める。

 ピンポーン。

 玄関のチャイムが鳴る。平日のこの時間だ。心当たりは1人しかいない。
 私から何かレスポンスを取る前に、がちゃりと玄関の開く音がした。
「おはよー。お、いいね、新制服」
 やっぱりというかなんというか、くるみが入ってきた。
 真新しいブラウンのブレザーに、グレーのスカート。
 ……に、ネイビーのシワシワTシャツにソックス。
 それ去年までの制服じゃん。大丈夫なの? 校則的に。
 後野のちのくるみ。小学校から付き合いのある、私の同級生。
 ひいき目に見てもその辺の男子より高い身長に、私の前以外では総じて低いテンション。
 小学校の頃から降霊術ネクロマンシー系を得意としていて、その影響からか髪は癖っ毛の外はねショートカットで色も薄い。
 そして首元には使い魔である悪魔のモコを封入した十字架クロスのペンダント。
 ……うん。いつ見てもぱっと見ヤンキーを地で行っている。女子にばっかりモテるのも無理はない。
 まぁ私もこの子も小学校から魔女系の学校で周りは女子ばっかり。男子にモテた事なんかないんだけど。
 自然に脱色しているくるみの髪は美容室でやるのと違って色味がまばらだ。伸びたそばから色が抜けていくため先の方が薄い色になっている。
 なんでも降霊術ネクロマンシーを解くときに一緒に髪の色も飛ぶんだとか。ドライクリーニングで服の色が落ちるみたいなアレらしいよ。知らないけど。
 そう考えるとくるみは去年までの制服のほうが似合ってたかもしれない。
 魔法高の制服はくるみの着ているインナーシャツ同様、去年まで全身ネイビーだったのだが、魔女のイメージ悪化に繋がるとかなんとかで、今年度からブラウン系のブレザーに一新されたのだ。
 ーーけれど、この子、早速それをミックスしたコーデで来やがった。私は知らないからね? いや確かに似合ってはいるんだけど。
「ひゃっ!!」
 キッチンに向かっている私の後ろに歩み寄ってきたくるみが、やにわに腋の下から胸を揉んできた。
 それと同時に爽やかなダージリンティーのような、くるみの髪の香りがする。
 中学の終わりあたりからこの子はよく挨拶代わりに胸タッチなんかをしてくるようになったんだが、最近はもう挨拶とか関係なくなってきてる気がする。
 そろそろやめさせないといけないとは思うんだけど、もう手遅れな気もちょっとしている。
「お、朝ご飯?」
 普段ならくるみが上がり込んでくる時間には、もう朝食はテーブルに並んでいる。朝に私が料理しているのが珍しいんだろう。
「そう。ちょっと起きるの遅くなっちゃってね」
「ふーん。寝坊したんだ」
「……ご飯の前に始業式の準備してたんだよ」
「今、起きるの遅くなったって言ったじゃん」
 ……。
 また負けた。
 いや、今のは自分で墓穴を掘ったな。でもくるみは普段ぼーっとしてるくせに妙なところで鋭いのだ。下手にごまかそうとしても毎回毎回言い負かされる。

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「まぁ、どーでもいいけど。あたしにもなんか頂戴」
 くるみはくるっと向きを変えると、2、3歩歩いて再びこちらを向き、肩なんぞをモミモミしてくる。
 来た。くるみのクレクレ攻撃。私だからいいけど、それ他の人にやったら某掲示板で散々言われるからね? なんて思いつつも、実はこの子の分の鮭は、玄関のチャイムが鳴った時点でフライパンに追加している。とはいえタダで食わせるのも癪だ。
「炊飯器にご飯あるから2杯分よそって。それと皿2枚と汁碗2つ」
「いぇっさー」
 ふむ。いい返事。私サーSirじゃないけど。今日はこのくらいにしといてあげよう。
「ほら、座って」
「わーい」
 私が焼き鮭とあさげを器によそると、くるみも持っていたナイロンバッグとを置いて私の対面に座る。
 この子は自分の家で朝ご飯を食べてないのか、それとも単に燃費が悪いのか。
 私が骨と身を分けながらご飯と一緒に鮭を食べる横で、くるみは某大豆が大喜びするバーでも食べるようにぱくりと飲み込んだ。
「豪快だねぇ」
「こういう系は頭から丸ごといくのがいちばん美味しいんだよ」
 何言ってんの。切り身なんだからどこから食っても脇腹じゃんか。
 ふと、くるみの荷物を見る。掃除機が去年までのと違っていた。
「掃除機替えたんだ?」
「あーうん。去年までの、ランディングローラーがイカれちゃって……」
「ランディングの時、ヘッドをタッチダウンする癖、直した方が良いよ?」
「あはは……」
 そもそも、なぜ女子高生が掃除機を持ち歩いているんだという話だが、これが私たち魔女にとっての基本的な移動手段なのだ。
 いわば大昔の魔女が箒に乗っていたような感じ。
 そんな安直な、と思われるかもしれないが、魔力の性質は『普通とは逆』ということ。
 頭に被るとんがり帽子も、元は、足に履くブーツの形から来ているのだ。帽子のツバはブーツの折り返し、リボンは足首を締めるもので、当然先端はつま先。
 今では普段被ることのない帽子だけど、正式な場では裏地を表にした革のものが使われる。当然前後も『普通とは逆』にするので、先端は後ろに折れるのが正解だ。さらには表裏も『普通とは逆』。内側にはゴム底が詰まっているため、その重さは大変なもんだ。
 同じ理論でいくと、掃除機が『常に床を這って空気を吸い込む道具』なら、その逆は『常に宙に浮いて空気を噴射する道具』。つまりまたがって飛ぶのに適した道具ということになる。空気を噴射する『吸入口』を後ろにして股がることで、手軽に飛行できるアイテムというわけだ。
「それにさぁ、2年からあれもあるじゃん? 部隊編成」
「あー。あれかぁ」
  部隊編成。より熟練した魔法訓練のため、同学年から3〜10人の魔女部隊を結成して登録する行事だ。
 ここで登録したメンバーとは、よっぽどの事がない限り、卒業まで同じチームで行動する事になる。
「足手まといになってもアレだし、ちょっと良いの買っちゃったぁ〜」
 くるみはそう言うと、掃除機を抱えて頬擦りを始める。東野電気のFUNNEO vcl-100。6気筒のバーティカルトルネードエンジンを搭載した、多用途かつマルチな掃除機だ。
 そして飛行用コードレス掃除機にしては珍しく、ランディングローラーに緩衝装置が付いている。なんだ、この子もちゃんと考えてたのか。
「そっかぁ、私もそろそろ高めの買った方が良いのかなぁ」
 集団行動となると、掃除機のスペックは露骨に響いてきかねない。私は壁に立てかけてある、高校入学時に学校で注文した格安の掃除機に目をやる。旧制服と一緒に買ったのだ、一緒にお役御免がいいかもしれない。
「だからさ、早く食べなよ」
 くるみがせかしてくる。なにが『だから』だ。それに大体、なんでくるみに指図されなきゃダメなんだ。どのみちもう食べ終わるし。次々と言いたい事が浮かんでくるが、口にものを入れたまましゃべるのはルール違反だ。私は鮭とご飯を咀嚼しながら、目だけで抗議する。
「早く飛んでみたいんだよ〜。それに、ゆっくりもしてられないんじゃない?」
 言われて時計を見る。時刻は7時58分。確かにそろそろ家を出た方が良いかもしれない。私は最後の一口になった鮭を口に放り込むと、お茶で流し込んだ。
 くるみが掛けてあったジャケットをとってくれる。でも投げて寄越すのはどうかと思うよ、人の制服。
 心の中でぼやきながらジャケットを羽織って内ポケットに愛用のリボルバー銃を忍ばせ、ホルスターに杖を装備すると、くるみはいつものようにネクタイを取ってきて手早く結んでくれる。朝食の対価だ。私は何度やってもこれが覚えられない。なんでこうぴったりと端の長さを合わせて結べるんだろう。
 うがいをしてリップを塗る。
 リップとは言っても、別に色の付いたものではない。いや、別にそういうものが校則で禁止されているとか、そういう事ではないし、むしろ魔法高の特性上、ばっちりメイクしてくる生徒も多いのだが、私はどうもそういうのが似合わないらしい。
 一度やって大不評だったことをもう一度やったりはしない。いや、興味はあるけどもうちょっと研究が必要かな。
 そういうわけで無色で無香料のD○C薬用リップで唇にツヤを持たせる。まぁ、これも気に入ってるって訳じゃないんだよなぁ、無色でももうちょっとツヤのいいのないかなぁ。
 とはいえ、これで健康的で乙女で可愛い学園のアイドル、 麦嶋あいらの完成である。
 時計を見ると8時4分になっていた。なかなかちょうどいい時間だ。私はとりあえず、今日の所は古い掃除機を肩に担ぎ、バッグをもう片方の肩に掛ける。
 くるみも新しい掃除機を肩に掛けて気合い十分のようだ。
 フフフ、見せてもらおうか、くるみの掃除機の性能とやらを!
「いやー、それ言うなら東野電気の掃除機の性能じゃないかなぁ」
「……。もしかして私、声に出してた?」
「あと学園のアイドルはない」
 ぎゃあ。